私は一人暮らしをしている大学生だ。ある日、夕方に帰宅したとき、
留守電に一本のメッセージが入っていた。再生ボタンを押すと、女性の声が聞こえてきた。
「もしもし、私はあなたの母親です。今日はあなたの誕生日だから、おめでとうと言いたかったの。
あなたは元気にしてるかしら。私はとても寂しいわ。あなたに会いたいわ。もう一度電話してくれるかしら。私の番号は090-1234-5678よ。待ってるわね。バイバイ」
メッセージが終わった。私は呆然とした。この声は確かに私の母親の声だった。
しかし、私の母親は5年前に交通事故で亡くなっているのだ。
私は恐怖に震えながら、メッセージの番号を確認した。090-1234-5678と表示されていた。これは母親が生前使っていた携帯電話の番号だった。
どういうことだろう。母親は本当に生きているのだろうか。
それとも、誰かが悪戯で母親の声を真似て録音したのだろうか。
私は迷ったが、最終的にその番号に電話をかけることにした。すると、電話が繋がった。
「もしもし」
女性の声が聞こえてきた。それはメッセージと同じ声だった。
「あなたは誰ですか」
私は震える声で尋ねた。
「私はあなたの母親よ」
女性は優しく答えた。
「嘘です」
私は叫んだ。
「嘘じゃないわ。私は本当にあなたの母親よ」
女性は静かに言った。
「それなら、証拠を出してください」
私は必死に言った。
「証拠ね……じゃあ、あなたが小さい頃によく読んであげていた絵本のタイトルを言ってあげましょうか」
女性は言った。
「それは……」
私は思い出そうとしたが、思い出せなかった。
「それは『おやすみなさいおつきさま』よ」
女性は言った。
「……」
私は言葉を失った。その絵本は確かに母親がよく読んでくれていた絵本だった。しかも、その絵本は母親が亡くなった後に捨ててしまったから、誰も知らないはずだった。
「信じてくれるかしら」
女性は優しく言った。
「……どうして……どうして生きているんですか」
私は涙声で尋ねた。
「それはね……実は私、事故に遭った時に死んではいなかったのよ。でも、重傷で昏睡状態に陥ってしまってね。それで、病院で5年間眠っていたのよ」
女性は言った。
「でも……でも……そんなことがあり得るんですか」
私は信じられなかった。
「あり得るわよ。医者も驚いていたけど、奇跡的に目が覚めたのよ。それで、あなたに会いたくて電話をしたのよ」
女性は言った。
「本当ですか……本当に母さんですか」
私は泣きながら言った。
「本当よ。あなたに会いたいわ。今すぐ会いに来てくれるかしら」
女性は言った。
「はい……はい……今すぐ行きます」
私は言った。
「ありがとう。私は病院にいるわ。あなたが来るのを待ってるわね」
女性は言った。
「分かりました。今から行きます」
私は言った。
「それじゃあ、またね。愛してるわ」
女性は言った。
「私も愛してます」
私は言った。
そして、電話を切った。
私は急いで家を出て、タクシーに乗った。母親が入院している病院の名前と住所を運転手に伝えた。運転手は不思議そうに私を見たが、何も言わなかった。
タクシーは夜の街を走った。私は窓の外を見ながら、母親との再会を心待ちにした。
母親は本当に生きているのだ。それは信じられないけれど、嬉しいことだった。
やがて、タクシーは目的地に着いた。私は運賃を払って、タクシーから降りた。
そして、病院の入口に向かった。
しかし、その時、私は驚愕した。
病院の入口には、大きな看板が掲げられていた。
その看板には、次のように書かれていた。
この病院は5年前に閉鎖されました
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